2010年 04月 22日
ようやく時間が経って、少しは昔のお話に思えてきたので、私の恐怖体験をここに。 ある日曜日、いつものように地図を広げて適当に決めた、ごく普通の住宅地を歩いていた。 とても天気のいい日で、滑り出しも上々、気分よくシャッターを押していた。 夫と別れて、一人で歩いていると、少し細い道路沿いに、小さな冷蔵庫が置いてあるのが目についた。住人が、使わなくなったものを放置しているんだろう、その表面の経年変化が何とも味わい深い感じで、しゃがんで構図を決めていた。 ファインダーを覗いて、「うーんどうかな、絵になるかな」と試行錯誤していると、背後に気配がした。その家の人(男)が車に乗って出てくるところらしい。ぱっとその場から離れて、出てきた車の横をすり抜けて歩いていった。 すれ違いざまにただならぬ緊迫感を感じた。 私が撮ろうとしている姿を見ていたらしい。早足で立ち去ろうとする私を、その男は、なんと車をバックさせながら「ブッブー!!ブブブーッ!!!!」とクラクションを連打しつつ追いかけてきたのだ! 轢かれそうな勢いだったので走って逃げたが、町内中を逃げ回るわけにも行かず、話して事を収めなければと思っていると、男が車から降りてきた。 怒り狂った顔で「何撮っとるんだ~!!!!!」と叫びながら、こちらに近づいてくる。なるべく相手を刺激しないような声を意識しながら「趣味で写真を撮っていまして・・・」と告げてみたが、全く聞く耳を持たず、「警察に訴えるぞ~!!!!何やっとるんだ!!!!」と吼える。恐怖に震えながら、とにかく謝った方がよさそうだと、「申し訳ありませんでした、申し訳ありませんでした」と繰り返しながら頭を深く下げた。しばらく凍ったような時間が過ぎ、バタン!と音がして、男が車に戻ったことがわかった。彼が視界から見えなくなるまでしばらく頭を下げたままじっとしていた。 それからよろよろと歩き出して、人気のない、安全そうな場所で夫の携帯に電話をかけ、迎えに来てもらった。 夫は「なんて可愛そうに!僕がその場にいたら、ギャフンと言わせてやったのに!」と息巻いていたが、きっと言えなかったと思う。だってあの人、尋常じゃないもん。 一年以上街歩きをしてきて、こんな体験は初めてだった。 家の中を覗き込んでまで撮ることは勿論ないし、その家の外構に魅力的なものがあっても、もし住人の方の姿が見えたら「撮らせてもらっていいですか」とお願いするよりはあきらめることの方が多い。なるべく不審に思われないように、円満に撮影していけるようにと気をつけてきたつもりだった。 誰の目にも触れる状態になっていた、その、路上に放置された物体を撮影しても、警察に捕まるはずもなく、私が怒られる筋のものでもないと思う。 それでも、あの極端な男性が、私の行為にあれほどまでの怒りを感じたことは真実だ。自分の所有物を、そして多分見て見ぬ振りをしてもらいたかったものを、直視され、記録されたかもしれないということは、彼にとってはものすごく恐ろしい行為だったんだろう。あのような人に出会ってしまったということは、私にとって不運としか言いようがないと思うが、それでもこの体験で、撮るという行為の持つ暴力的な点に改めて気づかされた。 私が撮りたいと思うようなものは、丹精を込めて育てられたバラでもなく、ピカピカに磨かれた車でもなく、堂々たるお屋敷でもなく、朽ちかけた塀だとか、伸び放題の雑草だとか、無秩序に積み上げられた家財道具だとか、住人が恥としているようなものが多いのかもしれない。私はその中に美しいものを見るのだけど、撮られている側はそうは思わないだろう。 それでも撮るのか、撮らないのか。私の覚悟の有無を試されているような気がする。相手に不快な思いをさせてまでも価値のある写真を撮る自信はあるのか。…勿論そんな自信はない。 今はクラクションの恐怖がまだ心の底にあって、被写体を選びながら撮っている。 誰が何を撮っていても、気にもされないような観光地に行きたい。他人の動向を気にしない都会で撮りたい、なんて思う。 またチャージされるまでは、無理せずに撮ろう。写真を撮ることが楽しくなくなってしまったらどうしようもない。 でも、いつかは、相手を納得させられるような写真を撮ることができたら…。 クラクションつながりで、オマケの話。 先週の日曜日、またまたうららかな春の日ざしの中を今度は夫と二人でてくてく歩いていると、まずは猛スピードで駆け抜けていく自転車のおじさん。その後ろから派手にクラクションを響かせながらまたまた猛スピードで追いかけてくる小型の乗用車。車に乗っているのはおばさんだ。 「なんだなんだ?喧嘩か?」とこっそり追いかけてみると、車の方がしばらく行った先でUターンしてきた。 不思議そうな顔をした私たちの横におばさんは車を停めて、「今の男、私が助手席に置いといたバッグを盗ったんです!それで追いかけたら、そこでバッグをぽーんと捨てて逃げて行って…」! えーっ!泥棒だったのか! 「中身は大丈夫でしたか?」「はい、大丈夫でした。驚かせちゃって…」そういって勇敢なおばさんは去っていった。しっかりおじさんの人相を見ておけばよかった。 のどかな日にものどかでない事件が起きているもんだな。
by holga1212
| 2010-04-22 09:54
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